
半世紀前の農事休みは、どの家庭でも子どもは農作業の戦力として、兄弟で父や母の手伝いをしたものです。
私も農家の生まれでしたから、父や母の手伝いを一生懸命しました。田起こし・田植え・田の草取り・土手の草刈り・稲刈り・脱穀・畑仕事など、今思い返すと様々なお手伝いを一年中やりました。
そのご褒美に、父は仕事の合間をみて、いろいろなことを教えてくれました。春の河川清掃の時には魚の掴み取り、やまぶきの咲く頃になると釣り・山菜採り、秋にはきのこ採りといった具合です。そうした少年時代を送ったことで、自然の中でストレスを解消する今の自分があるのだと思います。
ある秋の日曜日に、父やおじと私とで稲刈りの準備のため、はざ杭を取りに山に行き、順調に杭を集めてから、父の号令で昼食になりました。母の作ってくれたみそ焼きのお握りをほおばっていると、父が蜂が飛んでくるぞといいます。おじにはよくわかりません。しばらくすると父が、あっちの方だぞといい、少し傾斜のかかった山側をじっと見つめて、巣はあそこにあるぞと指し示し、私の後ろにきました。2〜3メートル位離れた所に蜂の巣がありました。大きな穴から蜂が出たり入ったりしています。父は思わず、にやりとしました。「すがれ」の巣でした。
夕方家に帰ってから、蜂とりの準備をしてまた山に行き巣を採りました。その晩は、家族で蜂の幼虫を取り出す作業をして、終わると母が煮付けてくれました。
砂糖と醤油、お酒を少し入れて慎重に煮ていました。小さな鍋に一杯ありました。母の煮付けの味は今も忘れる事ができません。また、蜂の子ご飯の美味しかったこと。 このことがきっかけで父から、蜂追いのこつについていろいろ教えてもらいました。カエルの肉・いなご・バッタの肉などで蜂を追うこと、秋には澄んだ空を飛ぶ蜂を見ること等でした。私はまるで。伊那の蜂追いを描いた映画「こむぎいろの天使」に出てくる主役の子どものようでした。
現在。小さな旅館を営んでいますが、秋になりますと、山のキノコと同様に蜂の子を旅館の一品にと考え、家ですがれ(クロスズメバチ)を飼育し、お客様をお迎え致しております。
ここ伊那谷では、地蜂のことを「すがれ」と呼んでいますが、学名でいうとクロスズメバチです。
岐阜県地方では、「ヘボ」と呼んでいるそうです。各地ではいろいろな呼び方があります。
※成虫の羽根はごそっぽいので、出来るだけとる。方法として、バーナーで焼いたり、鍋で煎ったりすることもあります。
※巣から蜂の子を取り出す方法は、ピンセットで丁寧に採る方法、バーナーで蓋を焼き巣を逆さにしてたたき落とす方法は早い仕事が出来ますが、巣が壊れ幼虫と混ざるので注意が必要です。巣の底をバーナーであぶり、蓋のかかっていない幼虫を先に採る方法等もあります。
それぞれに工夫してみてください。